小学6年の夏の日

小学校6年生の夏休みでした。その頃父の浮気が発端で母が心の病になり、その当時の家の中はいつも鬱々とした空気でした。毎朝いつも逃げるように仕事に出かける父をこれまた毎朝母は詰り詰め寄りました。子供心ながらに父が何故この針のむしろの家に帰ってくるのか不思議でなりませんでした。子供の私と違って、逃げる場所もお金もあるのに。その頃の私にはわかりませんでしたが、父は家庭を捨てるほどの勇気を持たない男だったのでしょう。また子煩悩な父でしたので、母のもとに私を置いてでることも忍びなかったのだと今になってわかります。
ある日、いつもの朝のひと悶着があった時にいつもと違う出来事が一つだけありました。すがる母を振り払った父の手が母の頬に当たり、母が口の中から出血
したのです。取り乱した母を振り切るように父は家を出て、家の中には母と一人っ子の私が残されました。
母が気が狂ったように泣きわめき家の中のものを壊し、呪いの言葉を吐き続けました。まるでそこには娘の私はいないかのように。
ひとしきり騒いだ後、泣いている私をぼんやりと眺めながら言ったのです。「あんたなんか産まなきゃよかった。お父さんを呼び戻すことも出来ない親不孝な娘なんか。あんたさえいなければ、私はお父さんにこんな目にあわされても我慢なんかしなくてよかったのに。」その時私の中でこのままこの家にいてはダメだ、私が死ぬか、母を殺すか、二つに一つの道しかない。そう考えた途端、あんな流れ続けていた涙が嘘のようにとまりました。もちろんこのまま私が家を出ることで母が自分で死を選ぶかもしれないという考えは頭の中によぎりました。でも私の心の中は家を出るという甘い計画に支配されていました。
すぐに自分の部屋に戻り、手を付けていなかった落とし玉の金額を数え始めました。一万円札が1枚、5千円札2枚、千円札が13枚。約3万円。子供用のキャラクター財布にそのお金をぎゅうぎゅうに詰め込み、居間でぼんやりしている母を横目でみながら玄関に向かいました。外に出て自転車をこぎ出しました。空は抜けるように青く、月が白く光っていました。その時強く思いました。「早く大人になるんだ。誰にも立ち入らせない場所を持てる大人になろう。」と。
その足で最寄りの駅に行き自転車を乗り捨てて、300キロ離れた県庁所在地の駅までの切符を買い電車に乗り込みました。4時間かけてやっとやっとたどり着いた都会のホームには警察官の人がいました。私に切符を切符を売った駅員さんが不審に思い、母のいる自宅に問い合わせたのです。(田舎ならではの展開!)
2時間もしないうちに喧嘩ばかりしている両親が揃って迎えに来ました。父に殴られると身構えた瞬間、抱きしめられ、父の涙を初めて見ました。母は初めて私に謝罪しました。その後、父は女のひとと別れたようです。それによって母も安定し、あの夏のことは家族で今でも話すことはありません。
ただ振り返ると、私はあの日おとなになったんだなと思えてならないのです。

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